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5:目が合わせられないのは

作:かぎ

 ぺたぺたぺた、と。アーマーの塗装補修。脚立にまたがってのこの作業は、ペンキ屋にでもなった気分だ。

「エザキ中尉……あの」

「ん〜?」

 ぺた。
 一瞬、作業の手が止まる。思わぬ弱々しい声に、動揺した。脚立の下から声をかけられたのに、振り向けない。
 ぺたぺたぺた。
 しかし、戸惑っている事がバレるのは、カッコ悪い。また、作業を再開する。

「あの、プリン、ありがとうございました」

 穏やかな声。
 お前、喧嘩腰じゃなくても、話できるんだなと。ぼんやり思う。

「美味かった?」

 けれど、やはり目を合わす事が出来ない。それは、先日の件の気まずさからか、どうなのか。良く分からなかった。

「……はい、それじゃ……」

 背後で女の立ち去る気配。
 振り向いて追いかけて『あのさぁ』だとか、声をかけるのがこんなに難しいなんて、今まで思った事無かった。
もどかしい二人へ5のお題 >> お題提供:リライト

2005/09/16





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