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1.どうやら、君には依存性があるらしい

作:かぎ

「『どうやら、君には依存性があるらしい』とか、言われたのだよ」


 チョコレートでコーティングされたビスケットをぼりぼり食い散らしながら、彼女はそんな風に語った。
 あぐらをかいた俺の膝を椅子代わりにしているものだから、それはもう惜しげも無いくらいビスケットのカスが俺のズボンを汚していく。


「何?チョコレートに依存しすぎるって?」


 どうでも良いが、こいつが居るおかげでテレビの画面が半分しか見えない。どうしても画面下の土管が見えないため、俺の操作する赤い服の男はさっきから火を吐く花の攻撃にやられっぱなしだ。


「それは、大丈夫、依存してるんじゃなくて体がチョコで出来ているだけ」


 どうやらビスケットを食べ終わったらしい。俺の膝の上を占領している彼女は、きょろきょろと部屋を見渡し始めた。次のお菓子を探しているのだ。しかしあれ以上食べたら身体がチョコと砂糖のミックスで埋まってしまうんじゃないかと心配する。
 俺の食後のデザート、ポテトチップスだけは死守しなければ。
 テレビ画面の中では、姫を助ける事無く赤い服の男がゲームオーバーを迎えていた。


「で、何て返事したの?」


 獲物を探すハンターのような目で菓子を探す彼女を一度持ち上げ、俺のほうに向き返らせて座らせた。
 彼女は何の迷いも無くこう答える。


「だから、『彼氏に聞かないと分からないよ』って」


「何て聞かれて?」


「『俺と付き合ってください』ってさ、わかんない人だった〜」


 多分、分かってないのは目の前の彼女の方だと思う。こいつに告白した男が居るそうな。で、それの返事が俺に聞かないと分からないって。どんな依存症の女と思われた事か。
 彼女はきっと、恋人になってくださいという意味での『付き合ってください』と言う言葉を、『今からどっかに行くからつきあってよ』と言う意味と間違えたんだと思う。リアルに。
 むしろ、告白したと言うその男が哀れだ。
 俺は、目の前の彼女の頭をなでた。
 だって、告白してきた男の頭をなでてやる事は出来ないし、じゃあ代わりにこいつの頭をなでるしかないじゃないか。


「ねぇ、キョウちゃ〜ん、ポテチ食べて良い?」


 ついに見つかってしまった様だ。
 俺の背後、高い棚の上に非難させておいたポテトチップスの袋を彼女が指差す。
 そして、俺の顔のすぐ下。触れるか触れないかの位置から、彼女が目を潤ませて見上げてくる。…。見上げてくるんだ。
 ヤバイ。
 これはヤバイ兆候だ。
 俺の食後のデザートが、最早陥落寸前のところまで来ていた。
2005/05/16





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