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3.相当侵食されていると思う、心の奥の奥まで

作:かぎ

 ぴりぴりと破いた袋からのぞく人形を見て落胆した。
 何て可愛くない顔なんだろう。
 眺めているのもウザいので、無造作にそれをかばんに押し込めた。


「アレ?フミ、サイダーにしたんだ?」


 サイダーをちびちびと飲んでいると、部活終わりのキョウちゃんがやって来た。
 ちゃん付けだけれど、彼は立派な男だ。
 その上、あたしのカレシ。
 やって来たと言うのも当たり前で、あたしは彼を校門で待っていたのだから。

「炭酸、嫌いじゃなかったッケ?」


 鋭いツッコミに、苦笑いを返す。
 ペットボトルは、お茶と決めている。お菓子好きなあたしは、ただでさえ『太り気味』と『普通』の間をうろうろしているのだ。この上、飲み物からも糖分を摂取してしまえば、大変な事になりかねない。
 だから、飲み物はお茶。その代わり、好きなお菓子を好きなだけ食べる。コレ、サイコー。
 実際、コンビニのペットボトル陳列を見るまで、お茶と決めていた。


「あ、そのサイダー、オマケついてなかった?」


 二人並んで、下校する。
 夕日を背に、まるで青春映画のよう。
 けれど、彼が気になるのは、サイダーについていたあのオマケだ。本当に可愛くない、あの人形。自分のかばんに入っていると考えるだけでも嫌な気持ちでいっぱいだ。


「知らないよ」


 そわそわとオマケの所在を気にする彼に、短く返す。
 小さな人形だったので、かばんの底に落ちてしまった様だ。肩にかけたカバンをわざわざ手に持ち変えて、あの不愉快な人形を探す。
 コンビニに入って、冷蔵庫に並んだペットボトルを見た瞬間だ。彼の笑顔が急に脳裏によみがえった。
 彼が、このサイダーのオマケを大切に収集しているのを見ていたから。
 だから、仕方が無い。


「わ、ヤサシーな、フミ」


 ようやく見つけた人形と引き換えに、彼はあたしの頭を優しくなでた。おまけに、彼の満面笑顔付き。
 こんな時、相当侵食されていると思う、心の奥の奥まで。
 彼が笑うと、何故だかあたしも嬉しくなってしまう。
 だから、ペットボトル一本くらい、お安いものなのだ。


「おおー、待ってたよ青髪ちゃん、残るはシークレットのみ」


 喜ぶ彼を盗み見て、納得した。
 あの不細工な人形のどこが良いのか。
 納得はしたけれど、それだけはどうしても頷けなかった。
2005/06/20





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