4.目が合うと、どうしていいのかわからない
作:かぎ
俺はその時、発売されたばかりのゲームにちょっとばかり夢中だったのかもしれない。今になって思い出すと、何となく、 『そのチョコパイ、あたしのだからね?』 と、念を押されたような気がしないでもなかった。 やがて俺は冒険に旅立ったし、彼女はコンビニへ買い物に言った様だった。 ところで、世に言うシミュレーションゲームは殊更頭を使うものだ。場面毎に最良の行動を選択し、自軍を勝利に導く努力を惜しんではいけない。戦局全体を見極め、戦術を駆使して戦うゲームなのだから。 今日は、そんなゲームの発売日だった。 俺は真剣にゲームに取り組み、頭脳を酷使していた。そして、その片隅で、脳は糖分を欲していた。 つまり、俺の周りにパイの包みが散らばって行ったのは、自然の摂理であり必然なのだ。 「あたしのって、言ったのに」 「そ、そうだっけ?」 戦局が落ちついた所で一息つこうとテレビから目を逸らしたその時だった。 いつの間にか買い物から戻ってきたのか。フミが般若の顔で俺の後ろに仁王立ちしていた。 怒りで肩が震えているわりに、それ以上言葉が無いのが逆に怖い。 俺はゲームに夢中になるあまり、いつの間にかフミの大切なチョコパイにまで手をつけていた様なのだ。 「ゴ…ゴメン、な…」 恐る恐る謝ったけれど、反応が無い。 ようやく目が合ったけれど、彼女の怒りと悲しみに満ち溢れた瞳を見てしまったら、どうして良いのか分からなかった。
2005/07/14
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