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1.違和感のない矛盾
作:かぎ
その女は、いつも特別だった。
例えば一度も食堂で見かけたことが無い。俺は実はそんな事全く気にしていなかった。と言うか、気が付いていなかった。
それが、である。
「俺、もう飯食ったし」
「そう言わずさ、係が怪我をしちまって……代わりに食事届けてくれよ」
申し訳なさそうに調理師がプレートを差し出した。
何を言っているのかと言うと、どうやらこの食事プレートを誰かの元へ届けて欲しいと言う事らしい。
しかも、普段は食事を運ぶ係まで居るそうだ。
この戦艦にそんな重鎮が居るなんて、初耳だった。
この艦は移民艦だ。軍人の方が乗艦数は少ない。一般人は生活居住区で普通に生活を送っているのだ。食事もそれらスタイルに合わせているはずだ。軍人も、食事は自分の好きな時に食堂で取れるようになっている。
艦長でさえ、居住区の出前を利用しているくらいだ。
「…誰?、食事を運ばせてる偉いサンなんて…」
だから、軍人に食事を運ばせるような者がこの艦に居るなんて、信じがたい。
「ほら、赤リングの…リンナさんだよ」
俺の問いに、何故か小声で調理師はそう言った。
申し訳なさげに、俺を見る。
俺は驚いてのけぞった。赤リングと言うのは、個人識別タグの事だ。軍人と一般人を分けるため、この移民艦では見た目に分かる識別タグを採用している。
軍人は青。一般人は紫。そして、赤というのは軍の中でも、特別な能力を持つ者に与えられる物だった。
けれど、だ。
確かあの赤リングの階級は軍曹だったと思う。
俺は、その矛盾に憤った。
つまり、俺よりも階級の低い女に、何故俺が食事を運ばねばならない?
艦長でさえそんな事を要求はしないというのに。
しかも、係まで居ると言うのか。
誰も違和感を感じなかったのだろうか?ただちょっとした能力のおかげで、その特別扱い。
その時からだ、俺はあの女が特別嫌いになった。
2005/05/14