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01.美しい存在
作:かぎ
普段使わない筋肉を使うと、激しく痛む。腕の裏側が特に酷い。
付きまとう痛みを紛らわすため、腕を何度か回した。
「どうかしたんですか?」
横から、気遣うような声。
彼女は雑誌から眼を上げ、不思議そうに俺を見ていた。最近の彼女は、月刊の雑誌がお気に入りの様だった。それは部屋のインテリア雑誌だったりファッション誌だったり様々な雑誌にご執心だ。
今日はコンビニエンスストアの情報をただ羅列した雑誌を手に、ソファで丸くなって居たはず。
しかし、俺の様子に気がついてくれたのは嬉しい。
「……んー、筋肉痛……かな?」
俺は立ち止まり、気になる個所をさすってみた。トレーニングの毎日のはずなのに、筋肉痛とは情けない。でも、痛い。
すると、彼女が立ちあがり近づいて来た。
「あの……少し、動かないでください」
彼女の手が、俺の腕に触れた瞬間。
暖かい、光が、あふれた。
青色の光。
俺は、この光を知っている。これは、彼女の力だ。
彼女自身も、うっすらと青い光に包まれている。
腕に有った違和感が引いていく。
何と言葉にすれば良いのだろう?
ただ、黙って、その様子を見ていた。
「いえ……ちょっとだけ、治癒能力を促進しただけですから」
すっと。光が消えて、彼女は慌てて手を振った。心を操作されたのでは? そんな疑問は、しかし、俺には無かった。
何より、美しい。
彼女のその姿が美しかった。
それだけだ。
「いやいやいや、サンキュ」
照れ隠しに、何度か彼女の頭をなでる。戦場でしか見た事が無かったその光は、とても優しく暖かいものだった。
最近は、戦闘よりもその事後処理の作業に追われていた。
と言うのも、新しく配属された赤リングのセイカが、進んで戦闘に参加していたからだ。彼女が力を使えば、敵の戦闘員は、ばたばたと戦線を離脱して行く。しかし、それらは捕虜にもならなかった。
壊れているのだ、心が。
ある者は暴れ、ある者はうめき、皆人間の言葉を持たぬ物と化していた。
「お疲れ、キツキ」
作業を終え、隊のメンバーが顔を合わせた。
皆、腕や腰を揉み解している。救助の訓練もそれなりに受けてはいるが、押しても引いても暴れる獰猛な生き物を運ぶとなると話は別だった。
同僚の言葉に頷き、片手を挙げた。
「お前、全然元気そうだ」
恨めしげに、別の奴から肩を叩かれた。
まぁ、ねぇ。俺は一日が終わればリンナさんが癒してくれるしなぁ。とか、自慢したい。けれど、自分だけの秘密にしておきたい。
結局、俺は一人ニヤけた。
そんな様子に、同僚から激しいツッコミが有ると思ったのだが……。
皆、興味無さそうに、一歩引いただけだった。
「キツキ……お前、やっぱり……」
「え?何だって?」
そんなやり取りの後、誰かが呟いた。
良く聞こえなかったので聞き返したのだが、返事は無い。
俺はその違和感を、正確には理解していなかった。だから、何を言っているのか、本当に分からなかったのだ。