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02.魔女の鏡
作:かぎ
見慣れた廊下を一人歩く。見知った顔とすれ違うと、大抵相手が目を逸らした。気まずいとか、私と関わりたくないとか、恐らくはそんな所なのだろう。
図書室を越え、右折する。そのドアを、何度かノックした。
「開いている」
返事を確認し、足を踏み入れた。私にとって、ここにあまり良い思い出は無い。けれども、月に一度は検診を受ける様に言われていた。今日がその日。軍を抜けてからは、はじめて訪れる医務室だった。
「ああ、君か」
医務局長。彼は、軍に居た頃からいつも同じ。無表情で私を見る。私の事を、軍の備品と見ていたのだろう。
しかし、私はもう軍人ではない。昔の様に敬礼をせず、かわりにおじぎ。
軍医は黙って採血を行った。
話す事など何も無い。私も静かに、自分の血が抜けて行く様を見ていた。
「こんにちは〜」
ガーゼを受け取り席を立つ。その後ろから、甘ったるい声が降ってきた。瞬間、ぞわりと背に何かが走る感覚。それは、明るい笑顔と優しい声。そのはずなのに、私は、気がつけば歯を食いしばっていた。
「あなた、リンナさん? あたし、セイカです」
彼女の腕に、光る赤リング。
私は、それに目を奪われている。
その光が、やがて近づき、私の目の前で制止した。
腕を、差し出されたと言う事に、気が付く。
握手、を、しなければ。できれば、笑顔で。
「よろしく、貴方の後任の、赤リングでっす」
けれど、私の腕は、上がらなかった。緊張している。かわりに、セイカがぐっと私の手を掴んだのだ。
「同じ能力者なんですし、仲良くしましょう?」
くすり、と。
彼女が笑った。
そして、また一歩、彼女が私へ近づく。
――同じ……?
いいえ、そうではないと。
頭の片隅で、私の中の何かが叫ぶ。
もしここに、私達の能力を写し出す鏡があったとしても、それは同じものを写さない、と。
私は、静かに彼女を見つめていた。
この違和感を、何と表現すれば良いのか。
「聞かせてくださいよ、どうやって、キツキ一佐をたらし込んだの?」
ただ一つ。
感じられたのは、剥き出しの敵意。
何故? と、問う事も出来なかった。
2005/09/26