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2.閉鎖された空間
作:かぎ
噂を耳にする。
あたしの前任――『赤リング』の処分の話。あたし達能力者にも2種類ある。あたしの様に軍に忠実であれと育てられた『純粋』な軍属の能力者。それとは別に居るのだ。軍に強制的に収容された『純粋』に一般人だった能力者が。
彼らは自身の意に反して力を使い続けるため体に負担がかかりすぐに『駄目』になる。使い物にならなくなったら、交代要員到着後『処分』される。
それくらい、実は誰でも知っている。軍人でそれを知らないのは余程鈍感な奴くらいだろう。
「でも、リンナさん…今は一佐と同棲してるんだろ?」
ブリーフィングルームの隅から、またその噂話が聞こえてきた。皆、あたしに気を使ってかあまりその事は話題にしないのだけれど、聞こえてくる話を繋ぎ合わせると内容は分かる。
すなわち、あたしの前任。先輩赤リングのリンナと言う女が、今は軍を離れ軍人と暮らしていると言うのだ。
急な着任だったので、てっきり前任は強制収容組だと思っていたが、それが間違いだったのか?
「セイカさん?どうしました?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
あたしの真剣な表情に焦った様に隊長が伺いを立てに来た。
そう、いくら隊に溶け込んだ様に見えても、所詮あたし達能力者は異端なのだ。皆、この能力に恐怖し、いつあたしが牙を剥かないか心配する。
だから、前任者の話は不思議だった。
どうやって軍人を射止めたのだろうか。
軍を離れた能力者はどんな生活をしているのだろうか。
何より、『処分』されなかったとはどう言うわけか。
とても不思議で興味があった。
けれど、その姿を確かめる術は無い。
あたしのはめる赤リングは、一般軍兵が暮らす住居スペースに入れないからだ。
ブリーフィングルームから与えられた個室に向かう。
あたしにおべっかを使う隊員達が居ないので、個室は唯一安心できる空間だ。
けれど、何の自由も無い閉鎖された空間。
同じ異端者だと言うのに、あたしと前任の赤リングのこの違い。
興味があったが、少し不愉快だった。
2005/07/10