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10.有罪の果実の味

作:かぎ

 シャリシャリと、りんごを剥く姿をぼんやりと眺める。器用にくるくるとりんごをまわす様子は、本当に女性らしい。
 足の骨をぽっきりと折ってしまった俺は、もう三日もベットに縛り付けられていた。
 病院は、早い時間に消灯するし、やる事がないのでつまらない。内緒で腕立て伏せをしていたら、酷く主治医に叱られた。
 しかも、軍からはこの機会に全身の検査も受けて来れば良いと言われてしまったため、急いで仕事に復帰する事も無くなった。
「何です?」
 ルリが手を止め、こちらを向く。
「仕事は良いのか?」
「今日は遅番です」
 と、言う事は、これから出勤てことか。
 さくさくと、りんごが八等分されていく。
 ルリがりんごに再び集中したので、俺はこっそり枕の下に隠してあった写真を取り出した。
 笑っている写真は没収されてしまったが、隠し撮りした写真はまだある。この写真は、塗装中のルリだ。真剣な眼差しが良い。
 りんごを剥く姿も真剣なのだけれど、機械類を扱う真剣な眼差しとはまた違う。
 仕事を離れ、ちょっとした家庭的な一面を見るだけで、彼女に惹かれているのが分かった。
「中尉。まだ、あったんですね? 大人しく、こちらに渡してください」
 いつの間にか、笑顔を引きつらせたルリが肩を震わせている。
 けれど、俺は、そっぽを向いて首を振った。
「イヤだ」
「え?」
 正面切って断られるとは思っていなかったのか、ルリはきょとんとして俺を見ている。
 一瞬の間。
 俺は大切に写真を懐に仕舞い込み、ルリを見上げた。
「俺さぁ、もうしばらく入院させられるんだと」
「そう……ですか」
 何と言っても、こちらは病院のベットに寝込む病人だ。
 ルリは、強硬な態度に出る事ができず、戸惑いながらちらちらと写真を見ている。
「これくらいの楽しみ、良いだろ?」
「た、楽しみって……?!」
「なぁ、俺と付き合ってください」
 また、一瞬の間。
「その写真を、返してください。話はそれからです」
「イヤだ」
 かたん、と。
 ルリが手に持っていたりんごを棚に避けた。
「言っておきますけど。それ、盗撮ですからね? しかも、機材の私物利用。バレたら怒られるだけじゃすまないですよ?」
 そうかもしれないけれど。
 ばれなきゃ良いわけで……。
 降りてきた彼女の唇は、りんごよりももっと甘かった。
[End]

有罪の果物の味#10 >> お題提供:アンゼリカ


2008/03/12


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