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09.涙を舐めて
作:かぎ
上機嫌で、写真をコクピットの画面横に貼り付けた。
女を追いかけていたのが、ようやく役に立ったのかもしれないと、その上を一撫でする。
感度の良いアーマーのカメラを使って、女の写真を撮った。作業着にペンキのはけとは、何とも色気のない写真だけれど、それが妙に嬉しかった。
「中尉ー、発進しないんすか?」
「あ、悪ぃ、各自順番に発進ー」
ペイント弾を装備しているとは言え、シミュレーターではない、実戦の訓練に皆も嬉しさを隠せないようだ。
機体の重さ、限定された視界の狭さ、コクピットの息苦しさ、戦場にかえって来た感覚が、気持ちを高揚させる。
だから、実戦の訓練は、とても好きだ。
「各員、順次発進、了解」
「了解」
「了解」
ノイズが混じる通信も、心地良い。
もう一度、写真を撫でて、カタパルトデッキに機体を預けた。
「さぁて、俺も発進するぞ」
「発進どうぞ」
管制官の声を受けて、発進する。
山に囲まれた平地が、今回の訓練所だ。見晴らしが良い。敵の位置も自軍の位置も、すぐに知れてしまう。短期決戦だ。自軍のメンバーに陣形のデータを送信しながら、着地する。迷わずに走り始めた。止まっていてはだめだ。
「九時の方向、来ました」
「迎撃、お前ら、負けんじゃねぇぞ」
「おうっ」
勢いに乗せた掛け声を聞く時には、ペイント弾の雨が振ってくる。
相手も本気って事だ。
走りながら、威嚇射撃する。その間に、陣形を整える。しかし、こんな視野の良い足場だ。後は、相手の姿を見つけて撃つのみ。
ペイント弾をかわしながら、敵機を見つけては撃ちまくった。
3、4、5機撃墜。
やはりこの瞬間がたまらない。
「と、思ってしまうところに、スキができるんだ」
「えっ」
見晴らしが良いから、つい前方に集中していた。
ペイント弾でも、十分弾幕になる。
気がついたら、背後を取られていて、バランスを崩した。
ぱん、と、乾いた音が聞こえて、画面が黒く塗りつぶされた。
次に気がついたときは、白い天井が見えて、
「訓練で負傷するなんて、どうしちゃったんです?!」
降って来た涙を舐めたら、少しだけ塩の味がした。
「お前、何でここにいるの?」
ルリの顔を撫でてやると、女は怒ったように頬を膨らませる。
「この写真、どうしてこんなものがあるんです?」
「うわっ、返せよ」
寝ていた俺の手は、空振り。
写真のルリは笑っていたけれど、それを持つルリは呆れたように俺をにらんでいた。
2007/09/03
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