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5.素直

作:かぎ

『アンちゃ〜ん、フウコちゃん探索隊の打ち上げおいでよ〜』


 電話の向こうから、力無いヤッタの声が響いてきた。フウコとあの男がどうなるのか、野次馬隊が結成されたそうだ。しかし、あまりに遠巻きに尾行したため二人を見失い、失意の中の打ち上げの最中だと言う。
 俺はテーブルを挟んで向かいに座るフウコを見た。彼女は器用にパスタをフォークに絡め、口に運ぼうとしている。
 俺の視線に気が付いたのか。ちょっと首をかしげた。


「わりぃ、今日は無理」


『え〜なんでさぁ〜』


 不満そうな声に重なる様に、ヤッタの背後から大騒ぎのざわめき。失意の打ち上げの割りに、随分盛り上がっている様だ。きっと、最初から宴会目当てなんだろう。


「彼女と居るから」


『え?!アンちゃん、彼女居たのっ?ええっ』


 ヤッタの驚く顔が目に浮かぶ。奴は自称情報通の男だ。電話の向こうの騒ぎをよそに、俺はうんとだけ返事を返しそのまま電話を切った。


* * *


 いつまでも抱き合っているわけにも行かなかったし、お腹もすいてきたのでパスタを茹でた。
 本当はもっと凝ったものを作れたら良かったのだけれど、如何せん自分のキッチンではないのだしカップラーメン以外の食材がパスタしかなかったのだ。


「…何?ダメだった?」


 そんなちょっぴり残念な思いを胸にパスタを食べていたのだが、急に手を止めてしまったのが良くなかったか。
 電話を終えた彼が、不安そうに私を見ていた。
 私はすぐに首を横に振る。


「いえ、彼女と言うのが…嬉しくて…です」


 しかし、素直にそう言うのはとても恥ずかしい。
 言葉の最後は消え去りそうな声になってしまったかもしれない。彼にうまく届いただろうか。
 俯いてしまったら、なでられた。
 だから、何故、頭をなでるのだろう。
 そんな些細な事も、これから少しずつ話して行けたら良いなと思う。しかし今は、照れ隠しにパスタを食べるのが精一杯だった。



2005/05/15


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