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あの頃の俺×忘却の君 [ 02 ]
作:かぎ

「何?知り合い?」


 突然肩を掴まれた彼女は、驚いた様に立ち止まった。
 振り向き俺を見た顔は、大人の女性。けれども、彼女だった。やはり、彼女だったのだ。
 次にかける言葉を模索していると、彼女の友人が彼女へ質問をする。


「……う…ううん」


 弱々しく首を振り、怯えた表情を見せる彼女。
 その様子に、俺は驚いた。
 当たり前の事だが、俺達はもう小学生ではない。お互い、気の遠くなるような長い時間を成長している。
 けれど、俺は彼女が彼女であると分かったのだ。
 そして、彼女は俺に気がつかない。
 その事実を、素直に受け止める事が出来ないで居た。


「ちょっと、用無いから、放して?」


 困り果てて俯く彼女に代わり、彼女の友人が俺の手を払いのける。
 情けない事に、俺はなされるがまま、ぼんやりその様を見ていた。


「行こ、だいたい、あたし達二人だし、失礼だね」


 友人に促される形で、彼女は歩き始める。
 そんな二人を、どうして止める事が出来ようか。
 ただ、俺は、小さくなって行く彼女の背中を眺めていた。


 お前、本当に俺の事覚えてないのか?
 けれど、追いかけてそれを問い質せはしなかった。
 緩めたはずのネクタイが、首に纏わり付く気がする。
 そう。
 俺はもうあの頃の少年では無く。彼女は一人俯いていた少女ではないと言う事。


 そうやって、納得するしかないのか。
 けれど、俺の心は、酷く引き裂かれた気がした。
(2005/08/20)