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ダイカイテン [ 01 ]
作:かぎ

「まだ、昼だし、俺達怪しく無いし」

「そうそう、だから、どっか行こ? ね?」

 目の前で繰り返される頭の悪い会話。たまに、仕事を早く切り上げる時がある。そんな時は、自然と駅前のこの通りに足が向いた。
 以前、彼女を見かけた通り。
 夕日を背に受け、今日もその道を一人歩いていた。

「あ、ほら、かばん持とうか?」

 俺の目の前で二人組の男に挟まれている女。少しくらい、拒絶すれば良いものを。黙って歩き続けるのが、男達の思う壺のような気配。
 とうとう、肩に掛けていたカバンに、男達の手が伸び始める。
 ぽん、と。
 歩く速度を速めた。息を整え、女を抱き寄せる。あっと言う、小さな驚きの声。次の呼吸で、完全に彼女を男共から引き剥がした。

「彼女、暇じゃないってさ」

 この方法は、多分、男達の神経を逆なでするだろう。
 実際、ぴたりと足を止めた、男の目は凍り付いていた。

「オヤジは、引っ込んでな」

 言い訳するつもりは無いのだが、片腕に彼女を抱いている分、ハンデが。
 男の緩やかな拳が、俺の顎に。
 瞬間、世界がぐるりと回転した。
(2005/09/25)