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望む事はクロスする? [ 03 ] 作:かぎ
丁度良い具合に、駅前には噴水があり、人を待つにはありがたいベンチも設備されている。もしかしたら、彼女は来ないかもしれないので、そこでしばらく座っていた。 けれども、それもほんの少しの間で、たたたたと言う小さな足音に俺が顔を上げると、いかにも走ってきましたと言う彼女がすぐに現れた。 「ごめんなさい、お待たせしました」 彼女は、丁寧にお辞儀をして、ふうと息を落ち着ける。 俺は、はやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと立ちあがった。 「いや、俺も、さっき来たばっかり……」 えっと。 彼女は、とても必死そうで。俺は、それ以上、何か気のきいた事をと思ったのだけれど、語尾が小さくなるばかりだった。もっと、何か場を盛り上げるような一言が欲しい。が、自身が緊張しているのが良く分かる。俺は、それを隠すように、さっと歩き出し、行くぞと声をかけた。 「あのぅ、今日は、その、どうして……」 しかし、彼女は困ったようにその場に留まるばかり。 そう言えば、と、俺はもう一度立ち止まり彼女の方へ向き直った。確かに、今日何をするのか伝えていなかったような気がする。 「映画に行きますよ、映画」 「……? え、映画」 何と言うか、そうまじまじと顔を見られても、困る。と言うか、照れる。 俺は小さく頷き、携帯を取り出した。 「だから、昨日送ったでしょ? チケットの写真」 そう言って、彼女が『玩具』だと主張した、映画のチケットの写真を見せてやる。 彼女は、俺の携帯をまじまじと覗き込み、それから大きくのけぞった。 「映画?!」 「そう、イヤ?」 俺は、携帯を閉じて、何気ない風に恐る恐る訊ねた。けれど、心の中ではどきどきだった。強引にここまで連れ出した感はあるけれど、やはり、反応が気になる。 「え、ええと、イヤ、と言うか、その……」 彼女の視線は、うろうろと辺りを見まわしていた。 困ったような顔はいつまで経っても晴れない。けれど、イヤ、凄くイヤと言うわけでも無さそうなので、俺は少しだけまた強引な手段に出る。 「じゃ、行くか」 再び、歩き出した。 目指すは、駅前の真新しいビル。最上階が映画館になっているのだ。きっと、新しくて良い場所だろう。 急がず、それでも開演時間に間に合うように俺は歩いた。 片手で、彼女の手を握り、歩いた。 「え、え、え、が……がんちゃん……あ、いえ、卯月君?」 彼女は、よたよたと歩きながら、戸惑ったような声で俺を呼んだ。 「いや、呼びやすいほうで呼んで、別にカツトシチャマとかでも良いけど」 「じゃあ、卯月君で」 そうして、ようやく彼女が呆れたように笑った。 彼女の笑顔は、俺を幾分か安心させた。 (2006/08/09)
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