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全てを通り越して [ 01 ] 作:かぎ
拝啓 木原きぬゑ様 お元気でお過ごしでしょうか、おれはまぁまぁ元気です。あれから、何事も無くきちんと帰れましたか? すこし、心配しました。 あの時は、本当に、すまなかったと思っている。ただ、一つだけ訂正したいのは、それは、 ぐしゃり、と、便箋を束から引き千切り丸めてゴミ箱へ投げ入れる。 駄目だ。駄目だ、駄目だ。中学生の書く手紙じゃないんだから、こんなつたない言葉で良いわけが無い。俺は一人頭を抱え、そのまま机にうつぶせた。 あの日、彼女と別れてから、もうすぐ1週間が過ぎようとしていた。 メールはしていない。 勿論、電話もしていない。 今となっては、毎日メールのやり取りをしていた頃が夢のようだった。 そして、俺は彼女の居なくなった日々を受け入れる事が出来ない。こうして、未練たらしく、手紙なんか書いてみたりして、気を紛らわせていた。本当は、こんな手紙を本当に出す気なんて無い。ただ、文字にして書くと言う事が、こんなに心に響くなんてはじめて知った。メールも電話も出来ない、それなら、手紙はどうかと書き始めた。それが、今では、まるで日課のように毎日毎日彼女宛の手紙を書きかけては破り去る日が続いている。 手紙が三行以上になった事は無い。 いつも、あの日の言葉を何とか訂正しようと言う所でつまずいてしまい、自分が嫌になって捨ててしまう。本当、嫌になる。 ゴミ箱を見ると、ぐしゃぐしゃに握りつぶした紙が溢れていた。 俺は、本当に何をしているのか。 彼女にふられたのだ。 いや、そもそも、縁が無かったのかもしれない。 いやいや、もしかしたら有ったかも知れない縁は、昔の俺が自分自身で無茶苦茶に壊してしまった。 けれど、こうして目を閉じると、彼女の少し照れたような笑顔だけが浮かんでくる。 都合の良い自分が、また、嫌になるのだ。 目覚ましの音で飛び起きた。 すると、どこにぶつけてもいないのに、頭ががんがんと痛んだ。 腕や腰もびしびしと悲鳴を上げていた。 ようやく、あのままうとうとと朝まで机で眠ってしまったのだと理解する。体がだるい。 試しに立ちあがろうとしたけれど、瞬間、ぐるんと世界が回った。 肩からどさりと倒れ込み、遅れてがつんと身体に痛みが走る。 「げはっ」 思わず息を吐き出したが、喉が焼けるように痛かった。 何とかベットに腕をかけ立ち上がるが、そのまま、ベットに倒れ込んだ。 頭が割れるように痛い。 「が、あ、あー」 何度か喉を鳴らしてみたが、声もまともに出なかった。 そう言えば、やけに寒い。 無意識に布団を握り締め、ぼんやりと、思う。 もしかして、風邪をひいてしまったのだろうか? 手探りで、枕元に有る薬箱を取り、体温計をわきに挟んだ。 目の前がふらふらする。 そのくせ、ふわふわ浮いたような感覚。 目を瞑ると、そのまま深い所に落ちてしまいそうだった。 ピピピと言う電子音に、気力を振り絞り、体温計を確認する。 38.5 霞む目で確認した体温は、ただ、絶望だけを俺に知らせた。 人はどうして、熱を確認した瞬間に、悲しくなるのか。そして、この、重病人感。 それでも、手を伸ばし、携帯を取る。 せめて会社に休む連絡だけは入れないと。 キーを押す手が震えて言う事を聞かない。からからと乾く喉を何度も唾で潤し、コール音を聞いていた。 『そうか、土日とゆっくり休めよ』 「……、あい」 上司の声を、遠くで聞いて、電話を切った。 最悪だ。 女には振られる、風邪は引く、熱は高い、一人は寂しい。 ごほっと、セキが漏れた。 それだけで、喉がささくれ立ったように痛い。 なにか飲み物を……。 それも考えたけれど、もう、立って歩くの億劫だ。 俺は何とか布団をかき集め、そのまま目を瞑った。 (2006/12/11)
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