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01.塔に捕らわれて

作:かぎ

「行ったぞ、五時の方向!」


 思ったよりも素早い動きに多少苦戦したが、敵機を追い込む事に成功した。最後の仕上げに、エンジン部分を撃ちぬく。動けなくなった所を、囲み込んだ。
 味方機のアーマーが円陣を組む様は、まるで巨大な塔。
 捕らわれた敵機は、ついにぴくりとも動かなくなった。徹底的に交戦するつもりなのか、銃口だけがこちらを向いている。


「リンナさん、一つよろしくお願いしますよ」


「……はい」


 隊長のお愛想に、暗い返事を返す女。
 やがて、アーマーの列後方から特殊塗装のアーマーが現れた。そのアーマーは静かに敵機に近づいて、そっと触れ合う。
 すると、青い色の光が2機を包み込む。いつ見ても不思議な光景だ。不思議で不気味。
 光がおさまると、敵機の銃口が自然に下げられた。最早、戦闘の意志が無いのだろう。捕獲用の味方アーマーが、敵機を囲んで艦に運ぶ。


 汚染が進んだ地球に見切りをつけた軍が企画した異星への移民。その巨大移民戦艦。
 俺は、この艦のアーマーパイロットだ。軍から正式に派遣された護衛部隊。異星人や宇宙海賊の侵略から戦艦を護衛するのが任務だ。
 そして、あの青い光を放ったアーマー。
 アレも一応部隊機だ。あの光をあてられた敵パイロットは、戦闘意志が無くなりおとなしくなる。エスパーとか超能力とか巨大な力ではないけれど、地球軍はあの能力を持った人間を重宝していた。最近では、必ず部隊に一人配属されている。


「連絡は以上、皆、次の戦闘までゆっくり休んでくれよ」


 隊長の一言に、わっと歓声が上がった。
 その中で、何の反応も返さない女が列を離れるのが目に入る。


「赤リング様はもうお帰りですか、良いご身分ですね」


 わざと聞こえる様に声を上げたのだが、その言葉も無視された。
 女は、こちらを見る事もせず廊下に消えた。


「おい、キツキ、やめろよ」


 そばに居た仲間が、たしなめる様に耳打ちする。
 俺は返事をせずに、肩をすくめて、歩き出した。
 あの女が気に食わない。そもそも、軍に所属しているのに、あの暗い態度は何だ。出撃すれば、一人、敵を傷付ける事を憂いている表情。軍人である事を選んだ時点で、そうして人を傷つける事に関して皆同罪なのだと思う。けれど、一人、マトモぶって腹が立つ。その上、誰とも協調しようとしない事への苛立ちもある。部隊の連携は信頼で成り立っていると言うのに、あの女はそれすらも危うくさせているのだ。
 しかも、女の特別な力に遠慮してか、隊長も艦長も彼女を殊更特別扱いしている様だ。それがまた嫌だった。


「仕方ないだろ、あいつは赤リングなんだから」


「けっ、気にいらねぇ」


 俺をたしなめた同僚は、なお、俺の後から説得を試みる。俺は、それに対して正直な感想を述べた。
 赤リングと言うのは、彼女が腕にはめている、固体識別タグの事だ。
 この移民戦艦は広い。多くの人が生活している。そんな中で、一般人や軍の関係者を見分ける事の出来るもの、それが一人一人に与えられた個別タグだ。電子チップが内蔵されているので、住居の鍵や進入可能領域のパス・個人情報や金融の管理もしてくれる便利な一品。
 普通の軍人は、それが青い。軍人の家族は青リングのゲストパスと呼ばれる黄色のリング。一般人は紫だ。軍人は住居スペースも別なので、一緒に住む家族にもある程度軍の施設内へ入れるパスが必要になる。従って、一般人と軍人の家族はリングの色が違うのだ。
 また、軍人はゲストパスを一人一つしか持たない。子供が生まれた場合等、家族が増えた場合のみ、管理局から新たなパスが発行されるのだ。そのため、軍人が自らのゲストパスを手渡す時は、それはプロポーズの時なのだ。
 話が少し逸れてしまったが、つまりこの艦は、完全に電子情報社会だ。
 そして、あの女。
 特別な力を持つ意味のパスは、赤のリング。この艦で赤のリングをはめている唯一の人物。しかし、だからと言って特別扱いを甘受して良いものではないと思う。
 だから、俺はあの女を、嫌っていた。


「でもよ、彼女だって事情があるだろうし、一人ぼっち戦艦に捕らわれてるような状態だしな」


「事情なんか、知らねっての」


 これは、時々耳にする話だった。
 特別な力を持つ者が、一人孤独なんだと。
 だが、俺は、他人と壁を作っている本人に問題が有るんじゃないかと思う。
 だから、やっぱり、あの女が気に入らないのだ。
2005/04/29


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