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03.追放

作:かぎ

「本日付で配属されましたセイカです、よろしくお願いします」


 アーマーの格納庫に隊員が集められた。ずらりと並んだ軍服に物怖じする事無く、その女は笑顔で挨拶をする。
 その時は、突然訪れた。
 俺達の艦に二人目の赤リングが配属されて来た。セイカは、あの女と違ってとてもはきはきとしていたし、軍の生活も心得ている様だった。
 物珍しさからすぐに彼女の周りに輪が出来る。
 俺が挨拶だけでもと後列から前へ出ようとした所で、興味なさげに群衆から離れて行く女を見た。
 あの女は大勢が集まる場面ではいつもそんな様子なので、誰もあの赤リングには興味がなさそうだった。


- - -


「キツキ一佐、入ります」


 普段はだらしなくはおっているだけのジャケットをきちんと整え、ドアをノックする。艦長直々の呼び出しに、知らず緊張する。
 丁度休憩時間に入った頃だった、突然、艦長室に呼び出されたのだ。
 戦闘も無くゆったりとした休憩時間、完全にだらけきっていた所をリングの緊急通信での呼び出し。一体何事なのか。
 何度か自分の腕のリングを確認したが、誤作動ではない様だ。


「ご苦労」


 艦長が一人、ゆったりとしたソファに座っていた。
 普段なら護衛官が数人居るはずなのだが、艦長室には俺と艦長が二人きりだった。何だろう、よほどの事なのか?


「早速だが、命令だ」


「はっ」


 俺の姿を見ると、おもむろに艦長は立ちあがった。そして、俺の返事と同時に、リングにスケジュールデータが送信されてきた。
 このスケジュールの通りに出撃すれば良いのだろう。
 個別識別リングは、このように時折個人命令にも使用される。便利な道具なのだ。


「リンナ隊員が、本日を持って軍を離れる」


「はぁ」


 リングの予定表を確認しようと、ディスプレイを見ていた俺に艦長が語りかけて来た。
 思わぬ名前が上がり、俺は中途半端な返事を返してしまう。
 あの愛想の無い赤リング。
 同じ赤リングのセイカが補充されてきたからか、軍を抜ける様だ。まぁ、調子も悪そうだったし。
 そんな風に納得しかけたのだが、何故艦長がここでその名前を出すのかは分からない。


「彼女は一人乗りのシャトルで艦を離れる、分かるな」


「…全く分かりませんが」


 本当に分からなかったのだから仕方が無い。
 あの女が軍を離れる事と、俺が特別命令を受けた事。
 何の関係があるというのか。


「彼女は多くを知りすぎている、だから、軍を抜けた瞬間に『事故』が起こる」


 良く分からない様子の俺に、艦長は苦笑いを浮かべ説明を続ける。


「志願兵とは違う、強制収容された兵が追放される時何が起こるか」


 そして、ここで艦長の説明は終わった。
 リングの確認は、出来なかった。
 ぐらりと地面が揺らぐ感覚を、やっとの事で抑え込む。

 ―強制収容された兵士。
 ―彼女は、シャトルで一人艦を離れる。
 ―そして、予定されている事故。

 嫌な単語が、俺の頭を一巡した。
 その事故を、俺に起こせと。
 つまり、軍を離れる彼女を、俺に撃て、と。


 それが俺に下された命令だった。
 艦長室を後にする俺に艦長が言葉を投げかける。


「疎んでいる彼女を撃つ、この任務は、君にこそ適任だと報告を受けているよ」


 違う、そうではないと。
 俺にそれを言う権利は、あるのだろうか。
2005/05/13


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