Return
05.捕らわれた歌姫の歌
作:かぎ
「お願いです、私をあそこへ」
まだ諦めきれないのか、女は爆発して破片しか残っていないようなシャトルを指差した。勿論答えはNO。首を横に振る俺。
「…だったら…」
腕の中の彼女が、震える拳に力を込めたようだ。
「……馬鹿が…」
意を決したような彼女の様子に、慌ててくちづけた。驚いて抗議しようとしたのか、彼女の唇が開く少しの隙を見つけ、更に深く口内を犯していく。どうせだから、たっぷり時間をかけて良く味わって、そしてようやく開放してやる。
自分が何をされたのか理解するのに時間がかかったのか、彼女は眉をひそめたような開いた口が塞がらないような微妙な表情のまま固まってしまった。
「舌噛むなら、またするからな」
俺のその言葉に、とうとう彼女は顔を逸らしてしまったようだ。だいたい舌を噛むのを止めさせるための手段であって、色気も何も無いハズなのに俺だって恥ずかしい。つい下を向いてしまった。
「両親に会いに行くなら、死んだって何にもならねぇじゃねぇか」
気恥ずかしさを紛らわすため、少しばかり早口で呟いた。
その言葉に、彼女は反応する。
「それで良いのです」
その声はとても静かな物だった。
抑揚も無い、感情も分からない。
そして、どんな歌よりも清廉でクリアな音質。
「両親は私を捕まえた軍人に殺されました」
下を向いていて良かったかもしれない。俺は何も言えなかった。つまり彼女は、親の敵に捕らえられ、無理矢理協力させられていたわけか。
周りは皆敵だらけ。
誰にも心開かず、馴染まず、一人で生きてきたというのか。
その上、今日自分が終わる事も分かっていたのだ。
「私を解放してください」
彼女は静かに言う。死を、受け止めていると言うのか?
けれども、やはり答えはNO。
俺は首を横に振った。
軍人である限り彼女の敵なのかもしれないが、それでも彼女を死なせてはいけないと思った。
「だいたいどうするんです?籍が無いのでもうあの艦には帰れません、私」
彼女の境遇を改めて確認し、だんだんと頭が上がらなく俺に対して、彼女は落ちついて来たようだ。
確かに、個別識別タグを持たない者は、あの艦には住めない。もしくは、捕虜として扱われる。しかし、俺はその点についてはちゃんと考えがあるのだ。
アーマーを帰艦オート操縦に切り替え、俺はごそごそと手元のリングを操作した。
狭いコクピットなので、すぐ手の届くところに彼女の腕が有る。素早くそれを捕まえ、サイドのジッパーを開く。あらわになった腕に有無を言わさずリングをはめ込んだ。
「俺のゲストパスを、やる」
それは、黄色に光るリング。俺の識別タグから外したばかり。これがあれば、軍人の家族として扱われるはずだ。
「貴方は…私の事を嫌っていたでしょう?何をしたか分かってるんですか?!」
それを見て、呆れた様に彼女が呟く。
俺の様子を見ていた彼女だが、埒があかないと思ったのだろうか、何とか外そうとリングを引っ張り始めた。
リングは俺のパスコードが無ければどうしようもないので、そんな事でリングが外れるはず無い。
けれども、その必死の様子がおかしくて、彼女の腕とリングを握り締める。
「だって、お前、暗いし隊の誰とも打ち解けないし、そもそもしゃべらないし、だからすンごくムカツクんだよ」
「私を捕まえて、どうするつもりです?」
彼女は懸命に腕に力を込めているようだ。
けれど所詮女の力。俺に敵う筈無いじゃないか。
「でも、俺はお前の事仲間だと思ってた、だから死なせない」
だと言うのに、震えているのは俺の声だ。
俺は軍人と言うのは自分がそうであったように、志願して戦うものだと思っていた。どんな志があるかは置いておいても、自分で望み戦いに来たと思っていたのだ。だから、彼女の有り方が許せなかったのだ。
しかし、彼女はそうではなかった。
俺と彼女は、同じ軍に籍を置いていたとしても、全く違うと言う事だったのだ。
そんな彼女をずっと傷付けていた俺はどうして良いか、本当に分からない。
「……私にどうしろと…?」
彼女は困っている。
それは、そうだろう。突然俺なんかにそんな事を言われても、困るだけだ。
俺は、少し考えてから、こう言った。
分からないのならどうすれば良い?
それは、
「じゃあ、もう少し仲良くなってください」
俺にしては、上出来の提案だと思ったけれど。
「……はぁ」
何とも気の抜けた返事が帰って来てしまった。
2005/05/20