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01.魔女の呪い
作:かぎ
格納庫にアーマーを落ちつけると、同僚が近づいてきたのが見えた。
「お疲れさん…その…気落ちするなよ?」
通信を使わずに、振動を利用しての会話。彼の声がコックピット内に響いた。
俺を気遣うような声。多分、赤リングが『追放』される場合、どのような道を辿るのか知っているんだと思う。有名な話なのかもしれない。
俺は腕の中でうずくまっている彼女を抱き上げながら、ハッチを開いた。
「何の話?」
足場を蹴って、ふわりと浮かぶ。格納庫内は無重力だ。
同時に、彼女の短い髪が揺れる。バランスを取ろうと、彼女の肩へ腕を回し同僚をちらりと横目で見た。
「あ…お…お…?」
そこに有り得ないものを見たように、硬直する同僚。
可哀想に、言葉もまともに出てこない様子。
俺はパニック状態の彼を残し、連絡通路へ向かった。
* * *
パイロットスーツを脱ぎ、軍服を整えた。
本日2度目の艦長室だ。彼女は俺の部屋に置いてきた。落ちついている様子だったから、死にはしないだろう。
「ご命令通り、シャトルが事故になりました」
敬礼をしたまま、少し上を見上げる。怖くて、艦長をまともに見れないのだ。俺の様子に黙り込む艦長。
艦長の威圧的な視線に、ちりちりと肌がこげあがる感じがする。
「……ところで、」
おもむろに、艦長が話題を切りかえる。
来た。
額に当てた手が、緊張でぴくりと動いてしまう。
「新しい家族が、出来たそうじゃないか」
「は」
「魔女の呪いに獲り付かれたのかな?」
艦長は、口元だけでにやりと笑った。
相変わらず、腕は組んだままだ。
その言われ様に、むっとしたが、即答は避けた。
落ちついて考えを整理する。
彼女は相手の心に干渉するのだ。良くは分からないが、そんな不思議な力がある。その力を利用して、敵兵の心を静めていた。
つまり艦長は、俺が彼女に操られたのではないかと、そう言っているのだ。
勿論、そんなはずは無い…筈だ。
彼女は俺が追撃に出る事を知らなかったのだし、助けたのは彼女に触れる前の俺の意思だ。
「…残念ながら、自分の意思です」
しばらく間を置いて、そう答えた。
これが彼女の意思ならば、どんなに楽だっただろう。
しかし、現実、彼女を拘束しているのは、俺なのだ。
今まで彼女に辛く当たってきた俺が、自らのエゴで彼女を連れ帰った。
「わかった、大切に、してあげてくれ」
艦長は、そんな俺の様子にため息を一つついた。
そうして、予想もしなかった言葉で、俺を励ましてくれるのか。
「…ありがとうございます」
本当は、減給…いや降格や処罰を覚悟していたのだが、どうやら無罪放免らしい。
俺は艦長の気が変らぬうちに、そそくさと艦長室を後にした。
2005/05/30