Return
03.荊の森
作:かぎ
信じてはダメ。
この人達は、私の母を殺した人達。
心を開いてはダメ。
同じ服を着た人が、父を殺したのだから。
両親を惨殺された私は、その足で軍の研究所に放り込まれた。
待っていたのは、笑顔の職員と大量のお菓子。
優しく私をいたわる大人達と色とりどりの薬品。
私はそれが作られたモノだと感じていた。私の力を都合良く使うためのプロセス。
だから、軍とは私にとっては荊の森だった。
全てが私に棘として食い込む、逃げることもできない深い闇。
けれど、私は子供だったし、帰る場所も無かった。だから、無口になり軍人に『お願い』されるままに力を使っていた。
この艦に配属されてからも、それは変らず。
食事制限や行動制限が常に伴い、それでも軍の重鎮が私に『お願い』にやってくる。
大嫌いだった。
私を物の様に扱う軍人が嫌いだった。
そのくせ、ご機嫌窺いだけは欠かさない、気持ちの悪い軍人が大嫌いだった。
だから、誰も信じず、誰にも心開かず。心を荊で覆って生きてきた。
誰にも関わりたくない。結局、この力を利用されるだけなのだから。
ゆっくりと寝返りを打つ。
暖かいのは良いのだけれど、どうにも息苦しい。布団を顔まで被って眠るのが苦手だ。
いつ誰に絞め殺されるのか分からない。そんな恐怖からだったか。布団が首にかぶさるのが嫌だった。
いつ誰に殺されても良いように。そんな期待からか、必ず布団から首を出して眠った。
ようやく寝返りを打ったが、今度は首筋に掛かる鼻息が気になってしょうがない。
何故だか分からない。
私はいつの間にかその大嫌いな軍人の腕に抱かれてベットに横たわっていた。
思えば、激動の一日だった。
力を使う事よりも、使った相手への良心の呵責。それは、私の心を蝕んで行った。メンタル面に左右される様に、私の身体は毎日の様に熱を持ち意識もはっきりとしない日が続いていた。
有る日、後任の能力者が来るから、軍を出て行けと通達があった。
軍の秘密を抱えた私は、そのまま『処分』される予定だったのだ。
やっぱり、どうしても鼻息が気になる。
もう一度、慎重に寝返りを打つ。
見上げると、そこには、安らかな男の寝顔。
こともあろうに、この男は命令を無視して、私を助けたのだ。
何のためだろう?
分からない。
食事が終わると、どちらが床に寝るかで口論になったのだ。
ここは男の部屋なのだし、私は男に拾われた身なのだから私が床になると主張した。
しかし、男は…否、自分が床だと譲らないのだ。
しばしのにらみ合い。
「分かった、アンタはベットに寝れ、俺もそうする」
突然男が私を抱えてベットにもぐり込んだのだ。
だいたい、何が『寝れ』か。そんな命令形は無い。
そんな事を冷静に考えながらも、男の目的を見た気がして、私は不安と恐怖ですくみ上がった。
のだが。
男はさっさと寝息を立てて眠ってしまったのだ。
そして、今に至る。
やっぱり、息苦しい。
まぁ、暖かいけれど。
この部屋に連れてこられた時は、てっきりそう言う事が目的だと思ってこれからの自分を悲しくも思ったのだが、そうではないような感じもする。
身体が温まってくると、次第に眠気が襲って来た。
ただでさえ、私は今日終わると思っていたのだし緊張していたのだろう。
息苦しいけれど、仕方が無い。
私は恐る恐る目を閉じた。