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04.冷たい硝子の棺
作:かぎ
いつの間にか眠ってしまった様だ。最近は、居眠りと言う事を覚えた。毛布に包まり本や雑誌を読んでいると、瞼がとても重たくなる。そのうち、読むために眠らないのだか、眠らないために読むのだか、だんだん分からなくなって気が付いたら眠ってしまっているのだ。
しかも、困った事にそれが至極気持ちが良い。
「ふぁ……」
自然に口から漏れる、生あくび。完全に開かない目をこすりながら時計を見た。そろそろ、起きて夕食の準備をしないといけない時間だ。
炊飯器のメモリに合わせて米と水を入れると、温かいご飯が炊ける。野菜を切って炒める時は塩コショウが必要。あの人――サブローさんは、私の作る夕食を食べる。私は、それが嬉しい。良くは分からなかったが、私は、夕食を作って待つのが日課になっていた。
――ウゥーン、ウゥーン
ようやく、ソファから体を起こした時だ。けたたましいサイレンが鳴り、部屋に備え付けられた警告灯が赤く光った。
一瞬で身体が硬直する。
個室の警告灯が光るなんて、ただ事ではない。最近は、大きな戦闘は無かったのだが……。予期せぬ敵が襲ってきたのかも……。
――いや、違うっ
頭を振り、自分の考えを否定した。戦闘ならば、艦の揺れが無いのはおかしい。爆音も聞こえない。だったら、何だと言うのか。不安が募る。
「……リンナさんっ」
誰かが、ドアの外から私を呼んだ。
「勝手なんだよっ! 今更彼女をあてにするのか?!」
それから、激しく怒鳴りつける声。
それは、サブローさんの声だった。私が……何? その答えは、本当は分かっていた。他人がそうやって、私の名前を呼ぶ時は、決まって私の力が必要な時なのだ。
ドアが開く。
「頼む、貴方の力を……」
見たことのある顔だった。医務局長だ。余程切羽詰っているのか、二人はもつれ合う様に、部屋になだれ込んできた。
「だから、もう彼女は軍とは関係無いんだ、それを今更」
医師と私の間に、強引に割り込み、今度はサブローさんが叫ぶ。私は、彼の背中の後ろで、少しだけ震えた。
けれど、それもほんの少しの間だ。
私の力が、必要。その事について、ある種諦めがあった。強要されないだけマシ。手に滲む汗を握り締め、私は一歩前に出た。
「良いのです、お急ぎなのでしょう?」
出来るだけ、穏やかに、言葉を選ぶ。震える腕を押さえようとしたら、隣からサブローさんの手が下りてきた。彼の手のひらは、暖かい。握られた手は、いつもの様に心地良かった。
連れられ、到着したのはアーマーの格納庫入り口だった。格納庫内を写し出すモニタを見て、驚愕する。
部屋の隅で倒れ込む軍人。見たことのある顔もちらほら混じっていた。そして、その中心。
赤く光る、いや、燃え上がる。
それは、知っているけれど見た事が無い。
「今は赤リングの抑止フィールドが形成されているが、それもいつまで持つか」
私達の到着を受け、医療班が駆け寄った。白衣を着た医師達は、焦りと苛立ちで落ち着かない様子。
『いや、いやぁぁぁぁぁ』
叫び声と共に、衝撃。部屋が揺れた。
部屋の中から、悲鳴が聞こえる。
それは、全身を赤い光で包み込んだ。つまりは、力を解放している、セイカの物だった。
「入り口に近づくなっ、あの光に捕まるなよ」
誰かの掛け声で、その場に立ち尽くしていた人々が後退する。
私は、見た事が無かった。セイカは、力を開放し、恐らく……。
「コントロールを失ったのですね」
「ああ、ああそうなんだ、どう言うわけか、このままでは彼女の身体が」
私の言葉に、医局長は呟いた。私達の力を制御するための赤リング。万一、味方に力を使おうとすると、その力を押さえ込むために抑止フィールド自動生成機能が備わっているらしい。
そして、その結果が目の前のアレだと言う。
結果、彼女の力は、フィールド内で濃縮され彼女を蝕んだ、と。
制御出来ないのだろう。ただ、ただ、苦しいだけ。
彼女を閉じ込める、透明のフィルム。それは、さながら冷たい硝子の棺のようだな、と感じた。
2005/10/26
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