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2.荊の奥で待っています

作:かぎ

「大切にするから、ずっと一緒にいよう」

 ゆっくりと握り締めた彼の手は、思いの他、暖かかった。
 私は、多分、この時幸せだった。
 そして、程無く、私は彼に抱かれた。
 溶けてしまえば良かったのだ。
 あのまま、幸せな気持ちのまま日々を過ごした、夢のような時間に。
 いっそ、溶け込んでしまっていれば。
 けれども、私の心の中、荊で包んだ本当の言葉が、私を責めたてる。

『ほぉら、彼はね、貴方の身体が欲しかったのよ』

 くすくすくすくす。
 彼には絶対に、知られてはいけない。

『貴方の価値は、その身体だけ、だから彼と一緒に居られるんだから』

 くすくすくすくす。


「検査、疲れたのか?」

「いいえ」

 ふいに覗き込まれた。驚いて首を横に振る。
 サブローさんは、優しい。たまたまオフの日と私の検査の日が重なったので、医局部まで付き添ってくれたのだ。

「そうか」

 そして、安心した様に、優しく頭をなでられた。
 どくん。
 胸が鳴る。
 疲れたのでは無い。
 ただ、私は、悲しい。
 これ以上、彼の期待に応える事が出来ないかもしれない。今日の検査が、長引いたのは、実はその可能性があるからだ。
 彼に、そんな事を言って、良いのだろうか?
 私は、医局長の言葉を思い出し、絶望的な気持ちになった。

「どうした? リンナさん」

 ふいに、身体が温かく包まれる。
 サブローさんに抱きしめられるのは、好きだった。
 暖かくて、安心できる。
 私は、一息、大きく息を吐き出し。
 それから、両腕に力を込めた。

「ごめんなさい……、だめ……、なんです」

 力いっぱい、彼の胸を押し、彼から離れる。
 だらりと、ゆっくりと、目の前でサブローさんの腕が下ろされるのが見えた。

「どう……、したの?」

 戸惑いの色を隠せない、サブローさんの声。
 私は、悲しい。
 私の心の中、荊で包んだ本当の言葉が、今私を捕まえた。

『くすくすくす……、身体を差し出せない貴方』

 そう、私の価値は、

『この男に抱かれる事が出来ないのなら、貴方の価値なんて、無い』

 無い。
 私が、ここに居る価値が無くなってしまった。
 それだけの、事。

2006/02/14

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