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02.禁忌の悦び
作:かぎ
格納庫の隅で固まる集団を見つけ、こっそり近づいた。
「よぉ、おめーら、何悪巧みしてんだ?」
「……、中尉ぃ、驚かせないで下さいよぉ」
俺に背中を叩かれた後輩が、ばつが悪そうににやりと笑う。
その手の中には、帽子。こ汚い作業帽の中に、札束が見える。
戦闘が無く、整備も終わり、俺達は暇だった。そして、最近の流行りは、つまり、カケ。
あれやこれをカケて、仲間から有り金を巻き上げるのだ。
「君達ぃ、こう言う行為は上司として見逃すわけには行きませんのぉ」
俺は、こほんとせき払いを一つして、円陣を組んでいた一人の肩を抱え込む。
その様子に、誰かがくすりと笑いを漏らした。
「んで? 今度は何を? 詳しく話しなさい」
そして、俺は、いそいそと財布を取り出した。
どっと、沸き起こる笑い。
ええい、煩い。俺だって暇をもてあましているのだ。
いけない事だとはわかっちゃいるけれども、これはこれで、楽しい悦びだい。
俺は、帽子を抱える部下に、カケの内容を促した。
「あれです、あの女、こいつが落せるかどうか」
こいつ、と。
指差されたのは、取り敢えず顔に問題の無い男。
それから、……、
あの女、とは。
整備班の中で、一人頑張る、あいつ、だった。
「でもねぇ、カケになんねぇす、お開きかな」
俺の心とは裏腹に、誰かがつまらなさそうに呟いた。
「だよなぁ、あの歳まで浮いた噂が無いんだぜ? 飛びつくに決まってるさ」
そうそう、と。
俺の周りで、男どもがにたにたと笑い出す。
「まぁ、そん時は、一回やってポイかなぁ」
カケの種である男は、こともなげにそのような事を口にする始末。
「お前、あの女と、よくそんな気になるよな」
誰かの言葉に、その男は、『女は女に違いないね』と涼しげに答えた。
多分、カケ金の何割かは、この男に流れるのだろう。
「いや、そんなこたぁねぇさ」
たまらず、俺は叫んだ。
自分でも、どうにかしちまったのかと思うくらいだ。あいつが、下らぬカケのネタにされているのが腹立たしい。どろどろと、心の中から怒りが上がってきた。
「お、中尉、大穴ねらいだ」
「そうこなくっちゃっ」
しかし、俺の気持ちは誰にも伝わらなかった。
かわりに、俺は、財布の中身を全部、失敗の帽子へ放り込む。
それは、きっと、絶対にこんな男になびくなと言う、俺のひそかな願いだった。
2006/01/15
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