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05.儚い抵抗
作:かぎ
「いやー、マジ、参った」
一人のそんな声に、野郎共が一斉に笑った。
俺達は、整備班の女に怒られて、しょげながら持ち場に戻ってきていた。ぞろぞろ、アーマー格納庫の片隅で座り込む。
俺も、皆と同じようにしょげていた。けれども、皆と同じには笑えなかった。
そうなのだ。賭けのネタにした女……、いや、彼女が、そのカラクリを知って振り向いた。その時、周りの奴らは、賭けが外れた事で誰も女の顔なんか見ちゃ居ない。俺だけ、そう俺は、彼女の一瞬見せたどうしようもなく悲しげな表情を見てしまったのだ。
下賎な賭けを止める事の出来なかった罪悪感。
自分も流されるように参加してしまった自責の念。
何より、彼女を悲しませてしまった後悔。
ぼんやりと、俺は一人、そんな事を考えていた。
「結局、中尉の一人勝ちッすね」
「はぁ、おい次やろうぜ、次」
気がつけば、無造作に束ねられた札束が目の前に差し出されていた。
そう言えば、財布の中身全部を、彼女が男になびかない方に賭けたんだっけか。目の前の札束を無造作に掴み、それから、まだ愉快に笑っている面々を見渡した。
「お前ら、こう言うのはこれっきりにしとけ」
その言葉は、自然に出てきた。
彼女のあの悲しげな表情を思い出すだけでも辛い。
俺の言葉に、周りの野郎共はざわりとざわめいた。
「……、中尉が、変だ」
誰かが、呟く。
「どうしちまったんです? そんなまともな事を言うなんて」
今度は、別の奴が不気味なものを見るような目つきで俺を覗き込んだ。
俺は何度か首を振り、爆発しそうな心をようやく押さえ込む。
「だぁー、煩いっ、とにかくアイツに手を出すなっ」
そう、勢いに任せて叫んでしまった。
「あれ? もしかして、中尉……」
俺の挙動に、驚いた顔をした面々が、すぐにニヤけた表情に変わる。
「へぇ、そうだったんですかぁ、それならそうと言ってくれれば」
「な、な、何の事だっ」
俺は、慌てて抵抗したけれども、そんなもの、まるで儚い抵抗。
「いや、以外だなぁ、中尉ってもっと華やかな女が好みだと思ってた」
あー、何と言うことだ。
俺は、自分で自分を責めた。
早く上手い事言い訳しないと、これでは、俺が彼女に思いを寄せているみたいじゃないか。
にやにやと俺を取り囲む部下達に、けれども、俺は何一つ言い返せなかった。
ただ、かっとなり熱くなった頭の片隅で、彼女の事をそっと思っていた。
2006/07/08
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