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3.けれどもこれは恋

作:かぎ

 ところで、これからどうすれば良いものか。勢いで抱き付いたは良いものの、それからどうして良いか分からなかった。
 相変わらず、彼からは何の反応も無い。
 いや、違うか。私は思う。彼が何も言ってくれなかった様に、私だって何も言わなかったじゃないか、と。一人、被害者のような顔をして、彼の隣に居続けた。私は、ずっとずるい女だったのだと思う。


「……わけ、わかんね」


 そうしているうちに、ずるずると彼が座り込んだ。引きずられる様に、私も床に膝をつく。俯いているので、彼の表情は分からない。戸惑うような彼の声が、耳に残った。


「あいつはどうしたの?」


 彼は、どうも春名君の事を気にしているようだった。目の前でうずくまる彼を見る。私がまたこの部屋に来た事を、疎ましく思っているのか。春名君と一緒に居ない事に落胆したのか。それとも…。
 分からない。
 けれど、私は決心した。


「春名君には、きちんとお断りしてきました」


 だって、黙っていても、何にもならない。
 黙っていたら、今までと何も変らないじゃないか。


「……なんで…」


 一度ぐっと目を閉じて、次に、はっきりと彼を見た。


「好きな…人が居るから、と」


 その言葉に、はっと顔を上げる彼。驚いた様に私を見つめ、また下を向いてしまった。
 その様子を見ながら彼の言葉を待っていると、ふいに、彼の手が私の顔に伸びてきた。急だったので、身体が先に反応してしまう。
 びくりと肩が震え、瞼が閉まった。


「俺が、怖いんだろ?」


 そっと目を開ける。
 私の頬に触れるか触れないかの、彼の手のひら。
 そして、苦しそうな彼の顔。


「それは…、怖いです」


 そうだ、私は彼が怖い。何も語ってくれないので、何も分からない。分からない事は恐怖だ。自分で理解できない事は恐ろしい。
 私は、震える手を、伸ばされた彼の手に重ねた。


「でも、好き」


 けれども、これは恋。
 どんな思いをしようとも、彼のそばに居たいと思うから。



2005/05/01


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